
2017年8月21日にアメリカ合衆国の広い範囲で皆既日食を見ることができた。私達はネブラスカ州で初めての皆既日食を観測して、日食の魅力に取り憑かれてしまった。世界中を日食を追いかけて回る人たち(eclipse chaser、日食ハンター)がいるのも頷けるほどの感動だった。日食を見た直後から次はどこであるのか調べだすほどになった。
2023年10月にはアメリカ合衆国の南西部で金環日食が見られた。私達はユタ州で観測した。皆既日食に比べると感動の度合いは下がるが、それでも美しいリング状に光る太陽は美しかった。
次回は2024年4月にアメリカ合衆国の広い範囲で皆既日食が見ることができる。数年前から一週間の休暇を申請してある。

日食は地球、月、太陽が一直線上に並ぶことにより、観測者から観て太陽からの光が月により遮られて月の影の中になる状態。皆既日食と金環日食ではともに太陽と月が完全に重なる。皆既日食では月の見かけの大きさが太陽より大きいため、太陽と月が重なった時に太陽からの光が完全に遮断される。金環日食では月の見かけの大きさが太陽より小さいため、太陽と月が重なった時に月の周りにリング状に太陽の光が地球にとどく。
皆既日食では太陽からの光が完全に遮断されるため、皆既が始まると一瞬で世界が日没後の暗さになる。そして皆既が終わるとまた一瞬で何もなかったかのように明るくなる。これが皆既日食の醍醐味で、日食チェイサーたちを引きつける神秘的な現象。
金環日食では太陽からの光が完全に遮断されることはないので、それほど明るさは変わらない。
2024年4月8日に再びアメリカ合衆国の広い範囲で皆既日食を見ることができる。今回はメキシコ中部を横断し、テキサス、アーカンソー、ミズーリ、イリノイ、オハイオ、ニューヨーク州を通り、ニューイングランド地方から大西洋に達する。

観測場所を決める上で一番重要なのは晴天率。天気が悪くてはせっかくの日食を見逃す可能性が高くなる。Eclipsophileというサイトが日食の日の過去の何年分かのデータを解析して曇天率(cloud fraction)出している。グラフはこのサイトから借りてきた図で、値が低いほど晴れる確率が高い。アメリカではテキサスが一番良く、メキシコだとさらに晴れる可能性が高いことがわかる。中西部から北東部はかなりの確率で天気が悪い。アメリカ中西部にすんでいるのでこのあたりの4月の天気の悪さは経験済み。”April showers bring May floor"というフレーズがあるぐらい。
私達はテキサスのサンアントニオかオースティンで観測の予定。
もちろん飛行機・ホテル・レンタカーが予約できるかも重要。テキサスなら大都市(サンアントニオ、オースティン、ダラス)があるから大丈夫かもしれないけれど、直前にはだいぶ値段が上がることが予想されるので、なるべく早めに゙予約を。ちなみに2017年では日食の一年前でワイオミング州のジャクソンホール近くのモーテル6で一泊600ドルにも高騰していた。
日食メガネは絶対に忘れずに。こちらも早め購入しておこう。2017年の日食のときには購入が遅れてしまい、1ダースのセットしか残っていなくて、50ドル近く払わされた。
日食を撮影するべきか否かは難しい問題だと思う。皆既日食の一番の醍醐味は写真に残せるダイヤモンド・リングやコロナではないから。私も相当迷ったけれど、やっぱり撮影はすることにした。
- 2017年皆既日食の時の撮影機材
- カメラ:ニコンD750
- レンズ:ニコン70-200mmF4
- マウント:3ウェイ雲台
- 三脚:スリック
- 2023年金環日食の時の撮影機材
- カメラ:ニコンD750
- レンズ:タムロン100-400mmF4.5-6.3
- マウント:ポラリエ+自由雲台x2
- 三脚:スリック
- フィルタ:マルミのNDフィルタ
2017年の撮影はフルフレームのカメラに200mmの望遠レンズを3ウェイ雲台に載せて撮影した。画角的には足りないけれどそれなりの写真は撮れる。
今回の皆既日食は2023年の金環日食の時と同様に400mmのレンズでポラリエで追尾しながら撮影の予定。魚眼レンズか超広角での撮影も追加するか悩む所。
太陽撮影用のNDフィルタも必須。皆既中とダイヤモンド・リングの時にはフィルタを外す必要があるので、着脱がしやすいよう工夫をするといい。
2017年8月21日の皆既日食はアメリカ合衆国を横断する広い範囲で見られた。西海岸のオレゴン州から始まりワイオミング、モンタナ、アイダホ州とロッキー山脈を通り、ネブラスカ、カンサス、ミズーリ、イリノイ州と中西部を抜け、ケンタッキー、テネシー、ジョージア、サウスカロライナ州の南部諸州を通り東海岸に達した。
私達は日食の前日、夕方にネブラスカ州のオマハに到着して、日食の当日にカンサス州のセント・ジョゼフとネブラスカ州のグランド・アイランドのいづれかに移動する予定だった。天気予報はいづれの町でもあまり良くない。ネブラスカ州でもグランド・アイランドからさらに西、ワイオミング州の州境近くまで行けば晴れる可能性が高くなる。ネブラスカ州は東西の幅が長く、ネブラスカ東端のオマハから西端までは760km、7時間のドライブになる。
この機会を逃したくないので、ネブラスカの西端まで行くことにした。取り敢えず腹ごしらえにネブラスカ名物のステーキを食べにでかけた。日食の時間から逆算すると午前2時にはホテルを出なくてはならない。夕食の後ホテルで仮眠をとり夜中の2時にホテルを出た。I-80を西に向かう高速道路は意外と交通量が多い。みんな同じことを考えている人たちだろうか。
天気予報と地図を見ながら観測場所を探す。ネブラスカ州の西隣のワイオミング州ではなぜか有料の観測場所を提供しているところがいくつも出てくるが、ネブラスカ州では有料の観測場所は出てこない。スコッツブラフという町が町外れの広場に無料の観測場所と駐車場を提供していると知りそこに決めた。
スコッツブラフの町の広場に着いたのは日食の数時間前。人々が段々と集まってきて芝生の上にシートを敷き陣取る。赤道儀付きの望遠鏡を準備する人、超望遠レンズのカメラで撮影する人、ビデオを三脚に立ててる人など様々な観測・撮影スタイル。携帯や小型デジカメだけの人がほとんど。私は200mmの望遠レンズしかないので、それで三脚に載せて撮影した。
皆既日食の1時間くらい前から日食が始まるが、日食グラスを通して見てもやっと分かる程度に太陽が欠けてくる。日食が80%ぐらいまで進むとなんとなく日の強さが弱くなるように感じ始める。周りの明るさは明るいままで変わらない。太陽が三日月ぐらいの細さになってきて、周囲の緊張度があがってくるのがわかる。気温がぐっと下がってくるのも体感できる。それまでは子どもたちは走り回って遊んでいたが、みんな静まり返り固唾をのむようにして皆既を待っている。
太陽が細くなるスピードが加速度的に早まったかと思うと、あたりが急激に暗くなり、人々の歓声とともに皆既が始まる。身震いがするほどの感動を覚える。日没後1時間後の暗さだろうか、明るい星がいくつか見えはじめている。太陽がある上空は暗いのに、地平線はぐるりと360度ある程度の明るさを残していて、夕焼けのように淡く色づいている。こんな神秘的な現象は今までに体験したことがない。
皆既が始まる直前から望遠レンズにつけていた遮光フィルターを外し撮影を開始する。皆既が始まる直前には太陽がほんの一部からだけ光が漏れているダイヤモンド・リング。皆既中には太陽の周りに淡く広がるコロナをが見ることができる。皆既の間はあまりの感動で少しパニックになりながら撮影する。撮影に集中しすぎてモニターばかり見ていてはいけない。この神秘的な現象を五感で感じるべきだ。
もっと皆既が続いてくれと願っていると、再び美しいダイヤモンド・リングがわずかな時間だけ現れる。太陽の光が加速度的に強くなっていき、周囲は急激に明るくなり、肌には太陽のぬくもりを感じ始める。感動がこみ上げ自然と涙が目に溢れてきた。その場に座り込んでしばらく動く気がしなくなっていた。
皆既が終わっても日食自体が終わるまで撮影を続けるつもりだったけれど、そんなのどうでも良くなっていた。皆既日食の余韻に浸って何もしたくない気分だった。
2023年10月16日の金環日食はアメリカ合衆国はオレゴン、ネヴァダ、ユタ、ニューメキシコ、テキサス州を横断する範囲で見られた。日食は土曜日の午前中だったので休暇をとらずに観測できるた。金曜日の夜にユタ州のソルト・レイク・シティーに着き、朝早くにメリーズヴェイル(Marysvale)という小さな町までドライブした。メリーズヴェイルではキャンプカーなどが泊まれる駐車場(RV park)に車を止めて観測することにした。
前回は200mmの望遠レンズで撮影だったが、今回は400mmの望遠レンズとポラリエという簡易赤道儀で撮影に臨んだ。金環日食は太陽の光がかなり明るいので手持ちででも十分撮影できる。次の皆既日食のこともあるので、簡易赤道儀を使って撮影することにした。事前に簡易赤道儀のセットアップの方法は練習していたものの、現場ではややもたついてしまった。簡易赤道儀の推奨荷重は2キロだけれど、スライド雲台プレートでバランスをとることでなんとか追尾してくれた。日食の開始から5分間隔で撮影して、太陽が三日月より細くなってから撮影間隔を短くした。
金環日食になる直前・金環日食のど真ん中・金環日食が終わった直後のコラージュが上の写真。金環日食はこの写真でみるそのままが刻々と変化していくのが観察できる。それ以上でもそれ以下でもない。
金環日食が終わった後も5分間隔で日食が終わるまで撮影を続けた。
2017年の皆既日食を見て本当に感動した。たった数分間の皆既日食だったが、昼間の明るさが一気に夜空へ変わる。太陽と自然の偉大さを感じる貴重な体験ができた。2023年の金環日食でポタ赤で追尾しての撮影の練習もできたので、2024年の皆既日食の準備は万端。2024年の皆既日食が楽しみでしょうがない。皆既日食を追いかけて世界各地に日食を見に行く日食ハンターの気持ちがわかる(というか日食ハンターになってしまった)。
最終更新日:2023年12月6日