パタゴニアは南アメリカ大陸の南端、アルゼンチンとチリまたがる地域。強風が吹き荒れ、地の果てとも言われる。アンデス山脈が南北に縦走し、太平洋からの湿った偏西風の影響で長年降り積もった雪が大氷原を作りあげる。大氷原とそこから流れ出る氷河によって削られた山々や氷河湖が壮大な景観を作り出す。
アルゼンチン側はフィッツ・ロイやセロ・トーレのトレッキングやペリト・モレノ氷河のクルーズと氷上トレッキング、チリ側はトレス・デル・パイネ国立公園でのトレッキングやペンギンを見に行くツアーなどがある。
パタゴニアは想像以上に広く移動時間も結構掛かる。今回パタゴニアの旅程は一週間弱と短いので、アルゼンチン側の2ヶ所(氷河とフィッツ・ロイ)に行くことにした。
(この旅行記の数年後に行った パタゴニア(チリ編)の旅行記はこちらから。)

ブエノス・アイレスを朝4時発の飛行機に乗りアルゼンチン側のパタゴニアの玄関口のエル・カラファテに向かう。結構この時間でも航空便はたくさん飛んでいてびっくりした。3時間ほどして、日が昇りアンデス山脈が朝日で照らされだすと間もなくエル・カラファテの空港に到着した。空港はラーゴ・アルヘンティーノ(Lago Argentino)という大きな湖に面している。氷河が溶け出してできた湖だからかエメラルドグリーンが美しい。
エル・カラファテの北200kmにあるフィッツ・ロイのトレッキングの起点の町エル・チャルテンへバスで向かう。エル・チャルテンとは先住民の言葉で煙を吐く山という意味。太平洋からの湿った偏西風の影響でフィッツ・ロイなどの山々は雲に覆われることが多いことからそう呼ばれるらしい。今回のパタゴニアの旅の最大の目的はフィッツ・ロイの麓へのトレッキングということもあり、エル・チャルテンに三泊することにしてある。ちなみにフィッツ・ロイの山並みはアウトドア用品の有名ブランドのパタゴニアのロゴのモチーフになっている。
エル・カラファテからエル・チャルテンへの道はアルゼンチンを南北に縦走するRuta 40という高速道路を通るのだが、さながらアメリカのRoute 66とういう感じだろうか。アンデス山脈から離れたこのあたりは乾燥地帯で途中にはなにもない。ところどころで羊が放牧されていたり、グアナコという小さなリャマに似た動物を見かけるぐらい。それでもエル・チャルテンに近づくにつれアンデスの山々が大きくなり気分も高揚してくる。

エル・チャルテンに着いたのはお昼ぐらい。残念ながら曇っていてフィッツ・ロイは見えない。お昼を済ませたあとに下見を兼ねて4kmほど離れたフィッツ・ロイの展望所までトレッキングをすることにした。本当はその1kmほど先にあるHidden Fallsという滝まで行きたかったのだが、小雨も時々降るし、暗くなっても困ると思って引き返した。夜は9時ぐらいまで暗くならないから滝まで全然行けたのだが、ひよってしまった。
エル・チャルテンからの日帰りのトレッキングはフィッツ・ロイの麓にある氷河湖ラグーナ・デ・ロス・トレス(Laguna de los Tres)までとセロ・トーレの麓にある氷河湖ラグーナ・トーレ(Laguna Torre)までの2つが有名。それぞれ往復20kmの距離。天気予報では明日が晴れ時々曇り、明後日が快晴の予報。明々後日も晴れの予報だけれど昼過ぎにはエル・カラファテに戻る予定なのでトレッキングはできない。本当は両方のトレッキングをしたいが20kmを2日連続はやや不安でもある。迷った挙げ句、明日は短めのトレッキングをして、明後日に本命のフィッツ・ロイの麓、ラグーナ・デ・ロス・トレスを目指すことにした。
ちなみに,ラグーナ・デ・ロス・トレスとラグーナ・トーレの近くにはそれぞれキャンプ場があるので,ラグーナ・マドレ,ラグーナ・イーハを通るトレイルを使ってサーキットのルートにすることもできる。
ホテルでゆっくり朝食をを済ませてから近場のLos Condores展望所とLas Aguilas展望所へのトレッキングに出発した(地図のエル・チャルテンのすぐ下の赤線)。フィッツ・ロイとは反対方向へのトレッキングでLos Condores展望所からはエル・チャルテンの町越しにフィッツ・ロイとセロ・トーレの両方の山が見渡せる。Las Aguilas展望所からは平野部の乾燥地帯とヴィデマ湖(Lago Videma)も見渡せる。ちなみにCondorはコンドル、Aguilaはイーグルの意味、そういえば鷲が飛んでいたような気がする。

パタゴニア旅行のハイライト、ラグーナ・デ・ロス・トレスへのトレッキング。
日の出の2時間ほど前、朝4時過ぎにホテルを出発してHidden Fallsという滝へ向かう。朝焼けのフィッツ・ロイをここで見ようとネットで入念に調べて決めていた。展望台までの4kmほどは初日に下見に来ていることもあり、ヘッドランプをつけてのトレッキングだが特に問題なかった。展望台から山の方をみると明かりが点々と見える。おそらくラグーナ・デ・ロス・トレスで朝日を見ようと登っている人たちの列だと思う。
ヒドゥン・フォールズ(Hidden Falls)は展望台から1kmほど先にあるのだが、トレッキングルートから少し外れるうえ目印もないとのことで、暗い道でたどり着けるか不安だった。そこでiPhoneが大活躍。あるかじめダウンロードしてあった地図とGPSで確認しながらなんとか日の出前に着くことが出来た。
夏とはいえ夜明け前には3−4度まで気温が下がった。強風もあいまって凍えながら日の出を待った。空が明るくなり、徐々に山肌が赤くなるのは本当に感動的。赤くなったフィッツ・ロイと滝の写真を寒さも忘れて夢中で何枚も撮った。山の赤みが薄くなってきたので、寒さに耐えきれずカメラや三脚をしまい歩き出した。ふと山を振り返ると、山がさらに赤くなっているではないか。これこそまさに燃えるフィッツ・ロイ!あわててカメラ取り出して、なんとかカメラに収めることができた。滝に戻って撮る余裕はなかったけれど。
燃えるフィッツ・ロイの感動が冷めやらぬままトレッキングを再開。日が昇ると徐々に暖かくなり、数キロ平坦な道が続くので快適。所々に小さな池や湿地帯がありフィッツ・ロイと絵になる。さらに進むとキャンプ場があり、そこを通り抜けると最後の難関のきつい登りセクションが始まる。このあたりから朝焼けをラグーナ・デ・ロス・トレスで見た人たちがどんどん降りてくるのとすれ違う。トレッキング初心者の私達には2kmほどで400mほど登る区間は不安で仕方なかった。日が照りつけるなか急勾配を登るのは本当にきつい。なんとかこの登り区間を登り切るとフィッツ・ロイとラグーナ・デ・ロス・トレスが眼の前に現れる。感無量。
ラグーナ・デ・ロス・トレスにどのぐらいいただろうか。幸い晴れていたのでそれほど寒くなく、ゆっくり食事をして景色を堪能した。ラグーナ・デ・ロス・トレスの左側にはもう一つの氷河湖であるラグーナ・スシア(Laguna Sucia)がある。左側の丘に登れば2つの氷河湖を同時に眺められるので、かなりおすすめ。
距離:22.0 km、累積標高:1068 m

昼過ぎのバスでエル・カラファテに向かう予定だったが、バスを午後6時発の便に変更してラグーナ・トーレ(Laguna Torre)へも行くことにした。Laguna Torreから見えるセロ・トーレは晴れることが少なく、雲がかかっていることが多いという。ラグーナ・デ・ロス・トレスで会ったアメリカ人のおばちゃんにこれだけ天気がいいのだから絶対行くべきと勧められたのもあり、迷いも吹っ切れた。
今朝も早起きして町外れのレンジャーステーションの近くに日の出を見に行ったが、山はあまり赤くならなかった。東側で雲がかかっていたのかもしれない。その後ホテルに戻り、朝ごはんを食べ、ホテルのチェックアウトを済ませてからトレッキングに8時半時過ぎに出た。バスの時間も気になるのでやや早歩きのトレッキング。ネットの情報では距離は往復18kmだがほとんど平坦なトレイルだと聞いていたのに、意外と高低差がある。昨日からの疲れからか結構堪える。快晴で、4km地点ぐらいからほとんどずっとセロ・トーレが見えていたのが救いだった。最後に数十メートルの坂を登るとそこにセロ・トーレとラグーナ・トーレが現れる。景色だけで言えばフィッツ・ロイとラグーナ・デ・ロス・トレスと全く遜色ない。湖には小さな氷の塊が浮かんでいて美しい。ちなみに、昨日ラグーナ・デ・ロス・トレスで会ったアメリカ人のおばちゃんと帰路ですれ違った。「来れて良かったね」「本当に来て良かったです!」と笑顔で挨拶。
ホテルには午後3時頃着いたが、サウナのシャワーを使わせてもらえて助かった。バスまで時間があったので、羊料理とビールで早い夕食を済ませる。エル・チャルテンでの四日間は本当に充実して、やりたかったことが全てできたと思う。天気に恵まれてラッキーだった。エル・カラファテ行きのバスに乗り込むと二人共あっという間に眠りに落ちていた。
距離:17.5 km、累積標高:501 m

ペリト・モレノ氷河のツアーはいくつもあるが、選んだのは氷河の上を歩くことができるトレッキングツアー。その中でも氷河の上を1時間半ほど歩くミニトレッキングと3時間半ほど歩くビッグトレッキングとあるのだが、ミニトレッキングにした。氷河を歩くのは慣れないと難しかったし、前日までの疲れが残っているので正解だった。エル・カラファテからラーゴ・アルヘンティーノ(Lago Argentino)沿いに1時間ほどバスで走るとペリト・モレノ氷河に到着。ちなみに国立公園の入場料は現金しか受け取らないので注意が必要。乗り合わせた日本人の方はアルゼンチン・ペソを持ち合わせていなかったので米ドルと両替をしてあげた。
ペリト・モレノ氷河はロス・グラシアレス(Los Glaciares)国立公園のなかで最も有名な氷河。アンデスの山で雪が堆積されて形成された氷河が東側斜面をつたいラーゴ・アルヘンティーノに到達する。氷河は湖に達する先端部分で幅5km、高さ60m(湖面の下の部分を含めると170m)、全長は30kmもある。一日に2mほどのスピードで進んでいるので、すごい音を立てて氷河の先端部が崩れ落ちるのを一日に何度も見ることができる。
バスは氷河が湖に達する側の対岸に着くので、トレッキングの開始地点まで船に乗ることになる。30分ほどのクルーズだが巨大な氷河を間近にみることができる。所々に氷河が崩れ落ちた氷の塊が浮いている。この氷河を歩くことができるのかと思うとワクワクしてくる。

対岸に着いたら靴にアイゼンを装着してトレッキングを開始。アイゼンを付けて歩くのは初めてで結構難しい。足を広げて歩かないと左右の足のアイゼンが引っかかって転んでしまう。登る時は重心は前、下りは重心を後ろにおき進む。歩きながら写真を撮ろうとして転んでしまった人がいて、ガイドさんに注意されていた。氷河は非常に複雑な形態で、クレバスや穴などがあり危険なので、一列になって歩く。転んでクレバスに落ちたら大変なことになる。氷河がゆっくりと湖の方向に流れ落ちる過程で底の岩石との干渉でねじれの力が加わりクレバス(裂け目)ができる。削り取られた岩などが氷河の上にあると岩が熱を吸収するので氷河が局所的に溶けて穴になるとのことだった。氷河の表面は削り取られた岩や砂でところどころ茶色になっている。クレバスや穴などの影の深いところや影になるところは青くて美しい。空ぐらいかそれ以上に青い。1時間半ほど歩いて出発地点に戻ると、お待ちかねのウィスキー・タイム。氷河をピッケルでかち割ってロックのウィスキーを作ってくれる。氷河の上で氷河で作ったロック・ウィスキー、格別。
氷河のトレッキングが終わると再び船に乗ってバスを降りた側に戻り展望所に行く。展望所は氷河の先端部と対岸が一番近いところに作られているのですごい迫力。氷河の全体像はパノラマ写真でないと入りきれないほど。氷河より高いところから見るので、30kmもの長さの氷河の全貌も見て取れるし、表面のギザギザ具合もよく分かる。
氷河のトレッキングは10歳以上65歳以下と年齢制限があるので注意が必要。

氷河ツアーが終わりエル・カラファテに戻ってお土産屋さんを冷やかしているうちに夕食の時間。パタゴニアの名物は羊料理。店先で羊を丸焼きしているのが見えるお店に入った。羊の焼き肉を二人で二皿頼んだら多すぎるとウエイターに止められた。代わりに裏メニューの羊のタン(lengua)を勧められた。牛タンは好きだけれど羊のタンなど食べたことはない。勧められるままに注文することにした。タンを茹でてマリネしたもので絶品。アルゼンチンワインにもよく合う。結局タンをお代わりして二皿食べた。実は値段も聞かずに頼んだので高い値段をふっかけられたらと少し不安だったけれど、一皿3−400円と凄くリーズナブル。賄いが余ったのかな?ウェイターのおじさんに感謝。
一週間弱のパタゴニア滞在だったけれど自然を満喫できた。天気にも恵まれて最大の目標だったフィッツ・ロイを間近で見ることが出来た。次来る時にはチリ側のパタゴニア、トレス・デル・パイネ国立公園のトレッキングをとの思いを強くした。
- 一日目: ブエノス・アイレスからエル・カラファテを経由してエル・チャルテンへ
- 二日目: エル・チャルテンで終日トレッキング
- 三日目: エル・チャルテンで終日トレッキング
- 四日目: エル・チャルテンでトレッキングした後エル・カラファテへ
- 五日目: エル・カラファテからペリト・モレノ氷河のツアー
- 六日目: エル・カラファテからブエノス・アイレスへ
最終更新日:2024年6月2日