アラスカの旅行記

はじめに
アラスカの熊

日本に帰国予定でとってあった2021年9月の二週間の休暇、コロナの影響で帰国が事実上不可能になったので、急遽アラスカ旅行に行くことにした。9月第一月曜日(Labor day)の週末からの二週間で予定をたてたが、レンタカーが全くない。昨年旅行者が減って大打撃を受けたレンタカー会社が車を大量に処分してしまっため、観光地を中心に車が不足しているらしい。二週間のうち最初の週は別の所に行き、アラスカ旅行は一週間に変更することにした。

アラスカの地図

アラスカ旅行といったらデナリ国立公園・氷河クルーズ・オーロラ観測の3つがまず思い浮かぶ。デナリ国立公園は公園内の道路が土砂崩れのため途中までしか入れないことが判明。公園内は自家用車では入れずツアーバスの一択。時間の制約も考えてデナリ国立公園には行かないことにした。氷河クルーズで海から見る氷河にも惹かれたが、クジラやシャチは時期的にいないということで取りやめ、その代わり氷河近くのトレッキングを選択。オーロラ観測は晴天率が高いフェアバンクスなどの内陸に行かないと確率が下がるので、今回は時間的に無理。

今回はトレッキングを中心に計画を立てることにした。ネットで検索して景色が良さそうなトレイルを7−8ヶ所候補の選んでおいて、現地で天候や疲労度合いの様子を見ながらどこのトレイルに行くか決めることにした。

イーグル・レイク(Eagle Lake)とシンフォニー・レイク(Symphony Lake)へのトレッキング
イーグル・レイクとシンフォニー・レイク

イーグル・レイク(Eagle Lake)とシンフォニー・レイク(Symphony Lake)はイーグル・リバーの南枝(South Fork)沿いにある湖。二つの湖の色のコントラストが美しい人気のトレイル。

トレイル・ヘッドはアンカレッジから30分ほど東にあるイーグル・リバー南枝(South Fork)沿いにある。イーグル・リバー北枝(North Fork)沿いにあるイーグル・リバー・ネイチャー・センターとは別なので注意が必要。

トレイルの始めの3kmほどは森の中を登る。対岸の山の斜面には民家が何軒か立っていて、中には小さな湖の湖畔に立つ豪邸もある。一旦坂をくだって一つ目の橋を渡ると緩やかな傾斜のトレイルが5kmほど川沿いに続く。川沿いは灌木が中心だが、両側の山の低い斜面には黄色のアスペンや白樺、緑の針葉樹、さらにその上には赤く色づいた高山ツンドラが絨毯のように広がる。9月の中旬で紅葉の最盛期。そんなに早いと驚くが、最高気温が12度ぐらいで、一・二週間もすると雪が降り始めるというので納得。

川を渡ってしばらく歩いていると対岸にムースの群れが!大きなヘラ状の角の雄が一頭とメスか子供が三頭。この時期は繁殖期なのでムースの活動が盛んらしい。去年グランド・ティトン国立公園に行ったときには見られなかったが、アラスカで初日から見ることができて感激。

ムースの群れ

平坦なトレイルを進んで行くと氷河でできたモーレンの岩石が見えてくる。湖にたどり着くにはこのモーレンを超えて行くことになるが、トレイルは全く整備されておらず結構大変。しかも人っ子ひとり見当たらない。とりあえず前進するしかない。足を進めていくと、前方に人が。’もう少しいけば、トレイルが見えてくるよ。上からの眺めは最高だよ!’と心強い声をかけてもらい、少し安心。15分ほど登ると左側のイーグル・レイクが見えてくる。イーグル・レイクは氷河湖特有のターコイズ・ブルーの美しい湖。上流にあるフルート・グレイシャーは8kmほど先にあるので見えない。更に30分ほどモレーンの中を進むとシンフォニー・レイクが見えてくる。シンフォニー・レイクは、上流に現在は氷河がないため透明な濃い青の湖。二つの湖の間の尾根沿いは岩もなく歩きやすい。そのトレイルをさらに登っていくと二つの湖を両方とも見渡せる。二つの違う色の湖と赤と黄色に色づいた高山ツンドラのコントラストが美しい。

モレーンを登る際にはなるべく左側を進むといいとは聞いていたが、行きには歩きやすいルートはなかなかうまく見つからなく苦労した。行きにはほとんど気づかなかったが、所々に石が積み上げて歩きやすいルートに目印が付けてあった。帰りは下りだからか気付きやすく比較的楽に歩けた。

行きにはトレール・ランをしているグループを含め3組の人にしか会わないほどだったが、帰りは午後になって少し人が増えていた。家族でベリーを摘んでいる地元の人たちなどがいた。

距離:18km、累積標高:500m

エクルトゥナ・レイク(Eklutna Lake)からペッパー・ピーク(Pepper Peak)へのトレッキング
エクルトゥナ・レイク

エクルトゥナ・レイク(Eklutna Lake)はエクルトゥナ氷河からの水を集めた湖で、ターコイズ・ブルーが美しい湖。下流にはダムがありアンカレッジの貯水池の役目も果たしている。トレイル・ヘッドはアンカレッジから40分ほど北東にあり、イーグル・リバー地域のすぐ北側にある。エクルトゥナ・レイクは市民の憩いの場所でもあり、湖畔には遊歩道がある。マウンテンバイクやカヤックのレンタルもあり、楽しむ人がたくさんいた。ペッパー・ピークへのトレイルは美しいエクルトゥナ・レイクを見下ろせることで人気。ペッパー・ピークまで行くと往復14km・累積標高1400mとずっと登り続けるが、途中で引き返しても十分景色が楽しめる。

トレイル・ヘッドから森の中を2.5kmほど登ると最初のベンチがある。ここが最初に景色が開けエクルトゥナ・レイクを見下ろすことができる地点。見下ろした斜面には黄色に色づいたアスペンや白樺と緑の針葉樹が広がり、対岸の山の端は薄っすらと雪化粧している。

エクルトゥナ・レイクの紅葉

この先トレイルは左に折れ、しばらくは湖が見えない側の斜面を登り続ける。ツィン・ピーク(Twin Peaks)と呼ばれる二峰の山を見ながら1.5kmほど登ると、2つ目のベンチがあり、ここがツィン・ピークとペッパー・ピークのトレイルの分かれ道。

右側のペッパー・ピーク方面へ進み、急勾配の坂を1kmほど登ると再びエクルトゥナ・レイクを見下ろせる地点に達する。このあたりは標高1000mぐらいで森林限界を超えているので高山ツンドラが広がる。最初のベンチでの景色が”素晴らしい”ならここからの景色は”ゴージャス”か。頑張って登って良かった。

この先稜線に沿って2kmほど、標高にして500mほど登るとペッパー・ピークに達する。風が結構強く景色はこの後あまり変わりそうになかったので、私達はこの地点で引き返した。風さえ強くなければ、ここでもっとゆっくりしたのだけれど。ここまでのトレイルはずっと土で段などはなく、急勾配のセクションは滑りやすい。それまで小雨が毎日のように降っていたこともあり、地面が濡れていたのでなおさらだった。ポールを持っていったので、下りでは重宝した。

距離:10km(14km)、累積標高:700m(1400m)(カッコ内はペッパー・ピークまで行った場合)

キーナイ・フィヨルド国立公園のハーディング氷原(Harding Icefield)へのトレッキング
ハーディング氷原とエグジット氷河

ハーディング氷原はアンカレッジの南にあるキーナイ半島(Kenai Peninsula)にある氷原。氷原とは氷床(グリーンランドや南極大陸を覆う大きさの氷雪塊)までの大きさではないが、いくつもの山を覆うほどの大きさの氷雪塊。例としてはパタゴニアのアンデスの山々を覆う氷原がある。ハーディング氷原の面積は1800平方kmで、カナダのバンフ国立公園・ジャスパー国立公園にまたがるコロンビア氷原の6倍の広さ。ハーディング氷原の縁には40もの氷河が流れ出るように連なり、いくつかは海岸線まで達する。これらの氷原・氷河と氷河に削られてできたフィヨルドはキーナイ・フィヨルド国立公園に指定されている。その中のエグジット氷河(Exit Glacier)は陸からのアクセスがあるため一番有名。1968年にハーディング氷原を8日かけて横断した探検隊のルートの出口として使われた氷河だったためその名が付けられた。ハーディング氷原へのトレッキングはこのエグジット氷河の脇に沿って氷原近くまで登っていく。

トレイル・ヘッドはスワード(Seward)から車で20分ほど北西にあり、レサレクション・リバー (Resurrection River)沿いの道を登ったところにある。スワードまでアラスカ鉄道で来ている人はシャトル・バスを使ってトレイル・ヘッドまで来ることができる。この道沿いにはいくつか4桁の数字を書いた標識があるが、これらはエグジット氷河の先端部がその年にあった位置を示している。最近では毎年数十メートルの速さで後退しているらしい。トレイル・ヘッドからはエグジット氷河展望所(overlook)までの往復3.5kmほどのトレイルとハーディング氷原までのトレイルが出ている。最初は森の中を登っていくが、岩は段状に整備されているところが多く、勾配のわりには登りやすい。途中視界が開けたところで振り返るとレサレクション・リバーとその谷間が見渡せる。私達が登ったのは朝九時過ぎぐらいだったが、雲海が広がって幻想的だった。

アラスカの地図

しばらくするとエグジット氷河が左側に見え始める。ほどなくトレイル・ヘッドから3km(累積標高400m)ほどのMarmot Meadowsという地点にたどり着く。Meadowsという名前から登りが楽になるかと思っていたが、引き続き登りが続く。いくつかのスイッチ・バックを経てTop of the Cliffsという地点に着くと、視界が一気に広がり、エグジット氷河とその上のハーディング氷原の一部が見渡せる。この地点でトレイル・ヘッドから4km(累積標高700m)ほど。一休みするには最適の場所。

Top of the Cliffsから先はかなり人が減る。この地点で引き返す人が多いのだろう。私達はこの時点ではハーディング氷原の一部が見えているという認識がなかったこともあり、引き続き歩き続けた。

Top of the Cliffsから先は高山ツンドラの景色が広く開けてくる。しばらくすると避難小屋がある。避難小屋の先は雪のためトレイルは全く見えない。幸い避難小屋のところで追い抜いてくれた人がいたので、その人の後を進む。何回か浅い小川を渡りながら進み、最後に小高い丘を登ると終点。この地点はハーディング氷原とほぼ同じ高さなので、氷原が広く見渡せる。氷原は氷の上に雪が覆っていてまさに銀世界。氷原の中からは山の頂(ヌナタック、Nunatak)がいくつか顔を出している。

距離:15km、累積標高:1100m

キーナイ・フィヨルド国立公園でのアクティビティとしては氷河クルーズや氷河近くのカヤッキングがある。ハーディング氷原から流れ出る氷河のいくつかは海岸線まで達する(地図のアイリク氷河・ベア氷河)ので、それらの氷河を間近で見ることができる。

ハッチャー・パス(Hatcher Pass)

アンカレッジの100kmほど北にあるタルキートナ山脈(Talkeetna)の峠道。グレン・ハイウエー沿いの町パーマー(Palmer)から30kmほど川沿いに登ったところにある。ゴールド・ラッシュで栄えたところで、インデペンデンス・マインという金鉱山の廃墟が州立公園として残されている。

ハッチャー・パス・ロッジ

ハッチャー・パス・ロッジはこのあたりの唯一の宿・レストラン。キャビンが10棟ほどのこじんまりした宿。赤い小さなキャビンと背景の冠雪した雄大な山々が印象的。

ハッチャー・パスの近くにはいくつかのトレイルがある。峠の駐車場にトレイル・ヘッドがあるエイプリル・ボール・トレイル(April Bowl Trail)は往復3.5kmほどの短いトレイルで、いくつかの小さな湖を見下ろすことができる。トレイルを歩き始めたが、一部が凍っていたので断念。標高1300mほどなので、雪が降っていると予想されていたのに準備不足で残念。その代わりに、すぐ近くにある1km弱のサミット・レイク・トレイル(Summit Lake Trail)を歩いた。

冬の間はハッチャー・パスへの道はクローズされるらしいが、スノー・モービルやクロス・カントリー・スキーをする人たちで賑わうらしい。

ロシアン・リバー(Russian River)の鮭の遡上
ロシアン・リバーの鮭の遡上

アンカレッジとスワードの間にあるクーパー・ランディング(Cooper Landing)の近くにあるロシアン・リバー(Russian River)で鮭の遡上が見れると聞いたので行ってきた。ロシアン・リバー・フォールズへのトレイルは往復8kmほど。鮭を目当てにした熊が多いらしく、やや緊張気味に歩く。トレイルには熊の落とし物を数回見つけた。

滝の近くには木の柵で囲われた観察ポイントがあり、そこから滝を見下ろすことができる。産卵のために川に戻ってきた鮭は滝をジャンプして越えて産卵場まで遡上していく。ほとんどのジャンプは失敗におわり、何回もジャンプを繰り返し続ける鮭を見ていると、応援したい気持ちになる。

200mmのレンズではやや足りないぐらいの距離からの撮影。慣れるまではなかなかジャンプした鮭をフレームに収めることができなかったが、慣れてくるとヒット率もあがった。鮭がジャンプしたとき背景が白くなる所でフレーミング位置で固定。フレームの下流側から鮭がジャンプした瞬間にシャッターを切るとちょうどラグからフレームに収まる。シャッタースピードを上げて、置きピンで撮影した。

アラスカ旅行を計画した時に、カトマイ国立公園で滝を遡上する鮭を捕まえる熊を見れると知り、是非見たい!と強く思っていたが、ピークシーズンは7月から8月。しかも水上飛行機でしかアクセスできないため今回は諦めていた。こんなにアクセスの良い場所で遡上だけでも見られるなんて夢のよう。前日のトレッキングで出会った人との何気ない会話から情報をもらえて感謝!

アンカレッジ(Anchorage)

アンカレッジ・ミュージアムはダウンタウンにあり、アラスカを題材にした絵画やモダン・アートがたくさん展示されている。Sydney Laurenceのデナリの絵が特に印象的だった。アラスカの先住民たちのコレクションが部族ごとに展示されていてすごく興味深かった。

買い物は最終日の午後に少しだけ。地元アーティストによる白樺のカゴをパン皿用に一つ、白樺のシロップを日本へのお土産に。

ジャコウウシ(Musk Ox)の毛糸キヴィート(Qiviut)で作った編み物は一見の価値あり。羽根のように軽い。カナダ・アラスカの北極圏に生息するジャコウウシの冬毛は極寒に耐えられるように内側の柔らかい毛と外側の太く長い毛の二重になっていて、その内側の柔らかい毛で作られた毛糸がキヴィート。 Oomingmakではアラスカ北部の海岸沿いに点在する小さなイヌイットの村々ですべて手作業で作られた毛糸や編み物を扱っている。野生のジャコウウシが春に夏毛に生え変わった時に落とした冬毛を拾い集めて作っている。

買い物といえば、アウトドア用品のお店のREIには大変お世話になった。ベア・スプレーはもちろん、着替え、途中でなくした手袋など、必要なものはすぐに手に入った。

熊対策
ベア・スプレー

アラスカはアメリカ合衆国のなかで熊が最も多い州。グリズリー・ベアーが3万頭、ブラック・ベアーが10万頭、ポーラー・ベアーが5千頭いると推定されている。アラスカの人口が70万人なので、その多さがわかる。

イエローストーン国立公園やグレイシャー国立公園で身の危険を覚える状況ではなかったが、熊を見ていたこともあり、トレッキング中に遭遇するのではと不安だった。今回の旅行の前にネットで熊に遭遇した場合の対処法を調べたのでがメモ代わりに列記する。英語のサイトで調べたけれど、 知床財団のサイトでも同じようなことが書いてあったので参考までに。

トレイルで会った人の中には拳銃を身に着けている人を何人か見かけた。さすがザ・ラスト・フロンティア(アラスカ州のニックネーム)という感じ。

終わりに

アラスカ旅行の3つの目玉デナリ国立公園、氷河クルーズ、オーロラ観測はお預けして、トレッキング中心の旅行。トレイルはどれも素晴らしく、アラスカの大自然を十二分に楽しむことができた。ハーディング氷原のトレイルは比較的人が多かったが、他のトレイルは人が少なすぎて不安になるぐらいだった。9月中旬で紅葉の真っ盛りだったのも良かった。

アメリカ中西部から飛行機で4−5時間と思ったより近いのでまた戻って来たい。その時にはデナリ国立公園とカマタイ国立公園に行ってみたい。冬にオーロラだけのために来るのも悪くないかも。

フォトギャラリー
アラスカ 1
アラスカ 2
旅程
 

最終更新日:2024年6月8日